2018年3月14日水曜日

リアル猪形土製品

猪の文化史考古編 8

この記事では「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)の「第1章猪造形を追って 2神となった動物たち (3)猪形土製品の世界 ①写実的な猪」の第9図の学習をします。
前回記事までと同様に学習といっても土製品スケッチの図像を理解するという視覚的確認作業(=スケッチ・写真の観賞)です。

1 猪形土製品
今からおよそ4000年ほど前、縄文時代も後期に入ると、土器を飾る猪は影をひそめる。
土器に縄文神話がはっきりと刻まれたのは、中期中頃の中部山岳地域を中心とした文化圏及び北陸の一部での出来事を言った方が適切かもしれない。
ところが、後期に入ると猪そのものをかたどった人形-人形というのもおかしいが-猪の形をした土製品がつくられるようになる。
縄文時代後期から晩期には、このような猪形土製品が北海道から中国地方までの遺跡で発見されるようになる。しかしその数は東北や関東では多いものの中部地方や西日本では少なく、近畿地方にてやや目立つといった状況である。北海道でも、東北に近い南部から1点発見されているにすぎない。また同じ東北地方でも青森や岩手に多い傾向があるものの、東北南部や日本海側他の地域では少なめである。このように地域や時代によって、大変ばらつきが認められている(新津2009)。

2 写実的な猪

第9図2 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
この種の中では最も大きい部類に入る。
ずんぐりした体形、平らで突き出た鼻先、二つに割れた脚先など大変リアルな造形である。なんとなく可愛らしさも漂う。縄文時代後期中頃から後半にかけてという、今から3000年ほど前につくられた猪である。つくりも丁寧でつやが残っている部分もあり、生き生きとした表情は芸術的にも優れている。この土製品をつくった縄文人は、実際に猪を目のあたりにしていたことであろう。

第9図3 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
鼻先や目、耳のつくりは猪そのものといってよい。たてがみが表現されている。身体の中は空洞。縄文時代後期末から晩期に作られた。睾丸を表現するように2個の瘤状突起をはりつけている。
土で作られた人の鼻や耳形とともに出土している。鼻形や耳形は木製仮面の部品とも考えられ、猪形土製品の用途を考える上で重要である。

第9図1 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
鼻先や顔の反り具合から猪であることがよくわかる。特に全身の縄目は、体毛の表現といわれる。土偶が大量に発見された場所から出土しており、猪土製品の用途を考える上でも重要である。
縄文時代後期初めという時期に位置づけられ、ここに掲載したリアルさが漂う猪形土製品のうち今のところ最も古い段階のもの。

第9図6 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
すぐに猪とわかる土製品である。全体に縄文がつけられていて、体毛の感じがつかめるが、両端が三角形状にふくらむ「I」字のような線は、この市原市周辺地域の晩期の土偶に特徴的な模様でもある。微笑んでいるかのような感じ取れる。
発掘当初は胴体だけが発見され、この住居から離れた別の住居2軒から出土した脚が接合したという。つまり、完全であった猪が、壊れ(あるいは壊され)た後、別々の箇所に捨てられ(あるいは埋められ)たということがわかる。
猪の用途を考える上で大変重要な資料といえる。

第9図7 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
鼻先の様子から猪とわかる。また胴体には上小猪と同じ「I」字状の文様がつけられている。

第9図4 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
猪の特徴がよく表現されている。

第9図5 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
突き出した顔つきや鼻先はまさに猪の造形であることがわかる。

第9図8 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
ずんぐりした体、短い脚、突き出た鼻先の2つの孔、まさに可愛い猪の体形ではないか。特に身体につけられた沈線による縞模様、これがウリボウを表すという。
津軽海峡を越えた北海道は猪の生息範囲からはずれており、このような地域から猪関連遺物が発見されることは、大変重要な問題となっている。土製品に限らず、北海道からは猪の骨も出土していることから、津軽海峡を丸木舟で渡った縄文人が猪を持ち込んだことになり、すでに猪を飼っていた可能性にまで問題がおよぶからである。


第9図9 「猪の文化史考古編」(新津健 2011 雄山閣)から引用
体形が木瓜のようなウリボウである。

3 感想
縄文神話が表現されている装飾土器は画像(写真やスケッチ)が小さくつぶれていたり、解像度が劣っていて立体性を理解できないばかりか、説明文がどこを指すのか理解できないところもあり、観賞に苦痛が伴いましたが、今回のリアル猪土製品の観賞は立体物としての理解に苦労することは無いので、心地よさ、楽しさを伴いました。
また千葉県の例が2つあり、興味が深まります。
北海道からの出土は縄文社会の猪関連祭祀が猪がいない地域にまで及んでいて、それだけ普遍的な祭祀であったことを示していて、猪の重要性を再確認することができます。
猪について学習することは大膳野南貝塚や西根遺跡の学習に大いに役立つと直観します。

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